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福岡地方裁判所 平成6年(わ)111号 判決 1994年7月25日

本籍

福岡市西区野方二丁目五番

住居

同市西区石丸二丁目四一番二三号 グラン・ドムール姪浜南六〇四号

無職(元貸金業)

重光明邦

昭和三六年六月一二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官飯倉立也出席の上審理し、次のおり判決する。

主文

被告人を懲役二年および罰金八〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福岡市西区石丸二丁目四一番二三号グラン・ドムール姪浜南六〇四号に居住し、同市内などにおいて「幸和」などの名称で貸金業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て

第一  貸金業者登録を従業員名義にするなどの方法により他人が営業しているように仮装し、顧客から受領した約束手形、小切手の取立てを仮名、借名の預金口座で行い、利息等の収入を仮名、借名の定期預金にするなどの方法により所得を秘匿した上

一  平成二年分の実際所得金額が八八九八万九三七三円(別紙一の1及び2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、右所得の申告期限である平成三年三月一五日までに福岡市早良区百道一丁目五番二二号の所轄西福岡税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告人の平成二年分の所得税額四〇三九万四五〇〇円(別紙二の1の脱税額計算書参照)を免れ

二  平成三年分の実際所得金額が二億九四九四万四三四一円(別紙一の3ないし6の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、右所得の申告期限である平成四年三月一六日までに前記所轄西福岡税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告人の平成三年分の所得税額一億四三〇二万〇五〇〇円(別紙二の2の脱税額計算書参照)を免れ

第二  利息等の収入を仮名の普通預金及び定期預金にし、未払返還金、貸倒金等の架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、平成四年分の実際所得金額が二億九一八一万三三四三円(別紙一の7ないし11の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記所轄西福岡税務署長に対し、平成四年分の所得金額が三億六〇五二万四三四九円の欠損である旨虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告人の平成四年分の所得税額一億四一二八万円(別紙二の3の脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一、二回公判調書中の被告人の供述部分

一  第二回公判調書中の証人重光英邦の供述部分

一  被告人の検察官に対する各供述調書(一六通、乙1ないし10、12、15、16、23ないし25)

一  重光英邦(一三通、甲44ないし46、49、51ないし56、58ないし60)、鳥飼隆憲(甲66)、重光さと子(二通、甲67及び68)、重光真理子(甲69)、重光良子(二通、甲70及び71)、重光禮子(甲72)、重光幸邦(甲73)、重光勇人(甲74)、山井憲一こと朴性基(甲75)、平野賢策(二通、甲76及び77)、阿部正(甲78)、田中耕作(甲79)、岩田正信(三通、甲80、81及び82)、望月幸雄(甲83)、津村政伸(二通、甲84及び88)、原嶋裕治(甲85)、佐藤竹四郎(甲86)、村山元紀(甲87)、中村卓朗(甲89)、白垣政幸(甲90)、小高喜久夫(甲91)、真鍋初美(甲92)、沖本成包(甲93)、阿部羊梧(甲94)、川内弘人(甲95)、村上泰治(二通、甲97及び98)藤田敬二こと文敬二(甲99)及び林竹千代(甲100)の検査官に対する各供述調書

一  谷龍二作成の申述書(甲96)

判示第一の一、二の各事実について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(三通、乙11、13及び14)

一  重光英邦(三通、甲47、48及び50)の検察官に対する各供述調書

一  査察官調査書(二〇通、甲1ないし20)

判示第一の二及び第二の事実について

一  黒瀬博巳(甲61)、荒川裕二(甲62)、田口笑子(甲63)及び米沢幸代(甲65)の検察官に対する各供述調書

判示第一の二の事実について

一  査察官調査書(甲21)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する各供述調書(八通、乙17ないし22、26及び27)

一  重光英邦(甲57)及び須﨑里美(甲64)の検察官に対する各供述調書

一  査察官調査書(二一通、甲22ないし43)

一  永田知光作成の領置てん末書(甲101)

一  押収してある平成四年分の所得税の確定申告書一枚(平成六年押第五〇号の1)

(確定裁判)

被告人は、平成五年五月二七日広島地方裁判所で出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反により懲役一年六月(三年間執行猶予)及び罰金三〇〇万円に処せられ、右裁判は同年六月一一日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、各年度ごとに所得税法二三八条に該当するところ、いずれも情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑併科刑を選択し、刑法四五条前段及び後段によれば、以上の各罪と前記確定裁判のあった罪とは併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示各罪につき更に処断することとし、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により所定の罰金額(所得税法二三八条二項)を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金八〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、違法な商品抱き合わせ融資の方法により高利の貸金業を営んでいた被告人が、三期で合計三億二四六九万五〇〇〇円余の所得税の脱税をした事案であるが、その動機は、専ら出資法に違反する違法な利益を秘匿し、営業資金を確保することなど私利私欲に基づくものであって、汲むべき点は見い出しがたく、国民の当然の義務である納税義務を免れることが違法性の高い行為であることはもとより、本件ほ脱税額は巨額で、ほ脱率も一〇〇パーセントと高率であって、所得秘匿の手口も悪質であること、本件犯行は家庭ぐるみの犯行であり、被告人は家族など従業員のみならず、税理士、公認会計士など専門家をも巻き込んで種々の罪証隠滅工作を図っていることに鑑みるとその犯情は非常に悪質である。よって、本件における被告人の刑責は重いというべきである。

しかし、他方、被告人は修正申告により、既に本税額である三億二七六二万七一〇〇円の追加納税をなし、その余の延滞税四億三一万九五〇〇円については税務当局との間で分割払いの約定が交わされ、重加算税一億円余についても母親所有の不動産の売却等により今後履行されるものと考えられること、被告人は本件を深く反省悔悟した上、今後は、貸金業を完全にやめ、運転手として地道に働く旨述べていることなど被告人に有利な事情も存する。

これらの被告人にとって有利不利な一切の事情を総合考慮して主文のとおり刑の量定をした。

(求刑・懲役二年六月及び罰金一億円)

(裁判長裁判官 仲家暢彦 裁判官 吉田京子 裁判官 野島久美子)

修正損益計算書

<省略>

修正損益計算書

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修正損益計算書

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修正損益計算書(合計)

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修正損益計算書

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修正損益計算書

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修正損益計算書(合計)

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